大判例

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仙台高等裁判所 昭和54年(ネ)455号 判決 1981年8月31日

控訴人(被告)

小山勉

ほか一名

被控訴人(原告)

片岡恵

ほか一名

主文

一  原判決の控訴人ら敗訴部分のうち、控訴人らに対し左記金員の範囲を超えて支払を命じた部分を取消す。

控訴人らは、各自、被控訴人泰啓に対し金二九三万〇、六六二円および内金二七三万〇、六六二円に対する控訴人小山は昭和五三年六月一日から、控訴人梁川は同月一三日から各支払ずみまで各年五分の割合による金員を、被控訴人恵、同智美に対し各金二六一万〇、六六二円および内金二四一万〇、六六二円に対する控訴人小山は同月一日から、控訴人梁川は同月一三日から各支払ずみまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  前項の取消部分に関する被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

三  その余の部分に関する控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を被控訴人らの、その余を控訴人らの、各連帯負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人らの控訴人らに対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、左のとおり附加するほかは、すべて原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

控訴人ら代理人は「被控訴人ら主張の日時場所において控訴人小山運転の本件車両ど亡アイ子運転の自転車とが接触し、同女が即死したことおよび控訴人梁川が本件車両の保有者であることはいずれも認める。控訴人梁川は抗弁として自賠法三条但し書の免責を主張する。控訴人小山に運転上の過失はなく、本件車両に構造上、機能上の瑕疵はなかつた。」と述べ、当審における証人和泉七郎の証言と控訴人小山勉本人尋問の結果を援用し、被控訴人ら代理人は右抗弁事実を否認すると述べた。

理由

一  被控訴人らと亡アイ子の身分関係、被控訴人ら主張の日時場所において控訴人小山運転の本件車両と亡アイ子運転の自転車とが接触し、亡アイ子が即死したことおよび控訴人梁川が本件車両の保有者であることはいずれも当事者間に争いがない。

二  右事故の発生状況については、原判決挙示の証拠に当審における証人和泉七郎の証言および控訴人小山勉本人尋問の結果を綜合すれば次のとおり認めることができる。即ち、控訴人小山は大型貨物自動車(一〇屯ダンプカー)である本件車両を運転し現場交差点を左折するため、一旦赤信号で停止した後、青信号に従い左折合図の信号を出しながら発進し時速約一五粁の速度で交差点内に進入したが、自車が大型車で内輪差が大きく道路左側端に沿つて左折進行することができないため、一旦ハンドルを右に切り後輪の通行の余地を自車左側部から道路左側端まで約一・二米ほど残し、交差点中央附近で時速を約一〇粁に減じ左に急ハンドルを切つて左折しようとしたのであるが、このような場合後方より道路左側端に沿つて直進するバイク、自転車等は先行大型車が左折のため残した通行余地の幅が大きいため、先行大型車が直進するものと誤解し或いは左折のため速度を減じた先行大型車の左折開始前にこれを左側より追い抜けるものと軽信して右通行余地内を直進して事故を起す、いわゆる左折事故が往々にして生ずる危険が大きいのであるから、控訴人小山としては自車の左側部を併進し或いは後方より直進接近してくる車両の有無を確めその安全を確認してから左折を開始すべき業務上の注意義務があるにも拘らずこれを怠り、左折開始前に左フエンダーミラーを一べつしただけで左側方に対する安全確認を十分に尽さなかつた過失により、折から亡アイ子運転の自転車が自車左後方より道路左側端を直進して交差点内に進入し自車に追いつき併進状態となつているのに気づかず、左に急ハンドルを切つて左折しようとしたため、自車左前輪前部のステツプを亡アイ子運転の自転車に接触させ、これにより転倒した自転車を自車左前輪で押しつぶし、更に後輪で亡アイ子を轢き同女を即死せしめたものと認められ、前掲各証拠のうち以上の認定に反する部分はいずれも措信できない。

右事実によれば、控訴人小山は本件事故の発生につき前記注意義務を尽さなかつた過失があるから民法七〇九条所定の不法行為責任を負うべきであり、また控訴人梁川が本件車両の保有者であることは当事者間に争いがなく、控訴人小山に前記過失が存する以上、控訴人梁川の自賠法三条但し書の免責抗弁は理由がないから、同控訴人は同条本文所定の運行供用者責任を免れることはできない。

三  そこで更に進んで控訴人ら主張の過失相殺に関し、亡アイ子の過失の有無について検討すると、当審証人和泉七郎の証言中には亡アイ子が黄信号を無視して交差点内に進入したとの供述部分もあるが、右は同人の警察官、検察官に対する供述調書である甲第一四、第二四号証の各記載に徴してにわかに措信し得ず、また道路交通法第三四条五項によれば、後続車は交差点において左折合図をなした先行車の進路変更を妨げてはならない義務があるが、前認定の如く本件車両は大型車で後輪通行余地を残すため道路左側端に沿つて進行しておらず、更に控訴人小山の原審供述によれば、本件車両の左折信号は前記通行余地を残すためハンドルを右に切つた際一旦消滅した疑いもあるので、亡アイ子の立場からみた場合果して本件車両が左折しようとしていることを明確に認識し得るものであつたかどうかは疑問であるが、然し前認定の如く本件車両が左折信号を出して交差点内に進入し速度を減じたものであり、亡アイ子が後方よりこれに追いつき接近して併進状態になつたものである以上、亡アイ子には先行する本件車両の動静に注意し事故の発生を未然に防止すべき安全運転上の注意義務を怠つた過失があるといわざるを得ないから、賠償額の算定につき右過失を斟酌するのが相当であり、その過失割合は前認定の事故状況ならびに控訴人小山が特に業務上の注意義務を要求される大型車両の運転者であるのに対し、亡アイ子が自転車に乗つていた主婦に過ぎないものであることを綜合考慮し、控訴人小山八割、亡アイ子二割とするのが相当である。

四  そこで損害額について判断する。

1  慰藉料

原判示のほか、前記亡アイ子の過失を考慮し金八〇〇万円をもつて相当する。

2  逸失利益

原判示のとおり亡アイ子の本来の逸失利益は金一、七七八万九、九八五円と認められるが、控訴人らに請求しうる損害額としての逸失利益分は前記亡アイ子の過失を考慮し金一、四二三万一、九八八円とするのが相当である。

3  被控訴人らの相続分

右1、2の合計額の三分の一である各金七四一万〇、六六二円となる。

4  葬儀費用

原判示のとおり被控訴人泰啓が支出した葬儀費用のうち金四〇万円について本件事故と相当因果関係を認め、前記亡アイ子の過失を考慮しこのうち金三二万円をもつて控訴人らに請求しうる損害額と認める。

5  損害の填補

原判示のとおり。

そうすると、被控訴人泰啓の損害額は3の金七四一万〇、六六二円に4の金三二万円を加えた合計金七七三万〇、六六二円から金五〇〇万円を控除した金二九三万〇、六六二円、その余の控訴人らの損害額はそれぞれ3より金五〇〇万円を控除した各金二四一万〇、六六二円となる。

6  弁護士費用

5の認容された損害額本件事故状況、訴訟に至る経過、審理理状況等を参酌し、各金二〇万円をもつて相当する。

五  以上のとおりで、被控訴人らの本件請求は、控訴人らに対し、被控訴人泰啓において金二九三万〇、六六二円および内金二七三万〇、六六二円(弁護士費用金二〇万円を控除したもの)に対する本件不法行為後で被控訴人らの請求する本件訴状送達の翌日(控訴人小山につき昭和五三年六月一日、控訴人梁川につき同月一三日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、その余の被控訴人らにおいて金二六一万〇、六六二円および内金二四一万〇、六六二円(前同)に対する前同様の遅延損害金をそれぞれ支払うよう求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべきものである。

六  よつて原判決の控訴人ら敗訴部分のうち右限度を超える金員の支払を命じた部分を取消し、右取消部分についての被控訴人らの請求をいずれも棄却し、その余の部分に関する控訴人らの控訴をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小木曽競 井野場秀臣 伊藤豊治)

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